多くの人が知らない・・・在庫の科学 【商人舎magazine・5月号】

棚卸の在庫金額だけを見て、商品管理の良し悪しは判断できません。
大切なのは金額ではなく、現物の品質や鮮度という中身であり、単品ごとの数量管理です。
本コラムでは、不良在庫が機会ロス・商品ロス・人時ロスを生む仕組みと、鮮度と生産性で勝負するための在庫管理・現場最適化の考え方を解説します。
在庫をデータだけで判断してはいけない
私は、数字の持つ本質的な意味を正しく理解していない、多くの企業を見てきました。
数字に弱く、数字の示す本質的な意味を、正しく理解していない中小零細企業が多いと思います。
この在庫に関しては、経営上、そして、現場の管理上、特に正しい理解が必要です。
過去にあった、生産性が低く、営業利益が低迷している、ある訪問先企業での話しです。
在庫管理の会話の中で、
「生鮮部門は、毎月の在庫金額を把握するように、店長に指示しています」と、本部の部長からのお話がありました。
私は、「棚卸の金額で、問題が解りますか?」と切り返したら、部長は、「・・・・・?」明確な返事がありません。
私は、
「棚卸の数字(金額)は、ほとんど意味を持たないと思いますよ」
「在庫は、現場で、現物とその状態を視て、一つひとつの内容を確認することが重要です」と伝えました。
データは、現場の本質を良く熟知した人が見ると、一つの仮説を設定する要素になることは確かです。
しかし、あくまでも推測の範囲内であって、その中身を理解することは出来ないのです。
商品管理上の良いか悪いかを、数字だけで判断してはいけません。
本質を見誤ってしまいます。商品自体やその管理状況、陳列状況など、現場の状態を直接視ないで、在庫金額や商品回転率、回転日数などのデータを見ても、全く何の役に立たちません。
そのこと自体の行動自体がムダな時間です。誤った判断をしてしまい、現場に不適切な指示をしてしまう結果になりかねません。
例えば、土曜日に棚卸をしたら二日分の在庫が有るし、土日の売上が高い店舗の場合は、在庫は更に増えて二日分では済みません。
在庫は、金額ではなく、品質や鮮度など、その中身が問題なのです。
これは、生鮮品だけでなくグロサリーの商品にも言えることです。不良在庫は、売上を生まないロスでしか有りません。
不良在庫の意味を理解する
鮮度感のない店や、目新しさを感じない売り場の殆どは、店内在庫の内、売れ筋が少なく、逆に、お客からの支持が低く回転率の低いC~Dランクの在庫が多い状態である場合が多いのです。
この様な店舗の場合、平常から全体として在庫過多で、品質の低下(日付が古い)した商品が多く、必然的に商品ロスも多くなります。
また、理念(コンセプト)を正しく理解していない店は、棚卸し前になったら発注を控え、在庫金額を減らして、期末の在庫金額の数値を低くすることに努力します。
結果として、売れ筋商品の欠品が起こることも少なくありません。
この場合、お客にも迷惑をかけますし、会社も大きな損出を被ります。
「お客に高鮮度の商品を届ける」「欠品を起こさない」という、本質(コンセプト)を良く理解している店の在庫は、平常から(量的に)適正に保たれていて、棚卸だからといって発注を抑えるような馬鹿なことはしません。
欠品には罪悪感を持ち、「お客様にご迷惑をお掛けしないこと」を、行動として徹底することが重要です。
鮮度と生産性で勝負

スーパーマーケットという業態が、今後厳しい競争の中で勝ち残るためには、競合店に対して、生鮮品の鮮度と品質(商品とヒービス)が勝負の分かれ目となります。
この場合、日々取り扱っている商品が、「どれくらい高い鮮度をお客に提供できているか?」ということが重要です。葉物野菜や刺身、そして、揚げ物など、高い鮮度を要求されるアイテムは、時間管理で、プロの目利きも要求されることになります。
商品を「如何に良い状態で、お客に届けるか」という考え方が、結果的に現場の多くのムダを減らして、お客の高い支持と信用を生み、生産性を飛躍的に向上させることになるのです。
現場を視て、あるべき標準を設定する
店舗や部門(カテゴリー)によって、在庫予算を設定することは大切なことです。
しかし、最も重要なことは、金額ではなく数量管理を全員が把握して、ことに当たることが重要です。
「野菜の相場が高騰し、結果的に金額ベースで在庫金額が高くなった」という様なことは、何の問題もないことです。
そして、部門の売上規模にもよりますが、
⇒B~Cランク品は、開店後、(売り場に出し切って)バックルームには在庫がない。
⇒商品毎に、在庫日数(販売期限)が設定されている。
⇒商品特性毎に、売り場の陳列量が大方決められている。などの『仕組み』と『基準設定』が、鮮度と生産性を高めることになります。
これらが数値(単品)管理の基本です。
そして、その総和が、あるべき在庫金額予算(基準)ということになるのです。再度申し上げますが、在庫金額の設定は、回転率などで割り出して決めるべきものではありません。
機会ロス、商品ロス、人時ロスに大きく関わる在庫
不適切な在庫管理は、機会ロス、商品ロスというような、商品に関わる多くのロスを発生させ、粗利益の低下を招く要因となります。
そして、意外に問題視されていないことが、ムダな作業を生み出し、人時ロスを発生させるという事実です。
過剰であれば、(遣らなくてもよい)商品移動、作り過ぎ、出し過ぎ、手直し加工、疲労など、多くのムダな人時投入を行うことになります。
確実に、生産性が低下して、人件費効率を落とし、営業利益の低下に繋がります。
このように、ムダな在庫、不適切な在庫は、競争力を確実に低下させてしまう原因になります。
もう一度現場で、それぞれの在庫を、“量”と“質”の両面から、深く検証し業務改善に繋げていただきたいと思います。改善が進めば、多くの成果を実感できると思います。
戦略的に管理する
それでは、より戦略的な検知から考えてみましょう。
想像してください。もし、グロサリーのバックルームに在庫が全くなかったら・・・?
店舗で納品されてきた商品が、全て2~3時間の内に、荷捌き場から売り場に補充されてしまう。
そして、納品ロットが適量で、バックルームへの補充残品の戻しがない。
特売品などは、納品された後すぐに、陳列できるようにダンボールカットされ、専用カートに積み込まれる。
商品によっては、陳列用の専用カート(キャスター付催事台)に積み込まれ(陳列され)、移動の時を待つ。
当然、ダンボールなどのゴミは、バックルームで処理され片付けられる。そして、担当者の移動も少ない。
「そんな夢のようなことは、うちでは考えられません」と言う声が聞こえてきそうです。
しかし、本来、「戦略を考える」ということは、あるべき形(思い、高い基準)に対して、どう現場現実を形作っていくかということです。
あるべき形の要求レベルの高さで、計画や方法、達成期間などが変わってきます。
在庫管理とは、鮮度管理のほかに、数量管理の側面から、物流を科学して、全体の管理工数を減らし、管理コストを減らすことなのです。
特に、店内作業のコスト削減が、競争優位性の確立に繋がる重要課題なのです。
コストが高いから、高く売らなければ儲からない・・・。
これでは、競合店に対して初めから劣勢に立つことになってしまいます。
「君の売場には、バックルームが有るじゃないか!」
私は、新店の店舗図面を持っていき、レイアウトについて、渥美先生に質問しました。
「先生、弊社のレイアウトは・・・(中略)、如何でしょうか?」
渥美先生は、「君のレイアウトには、多くのバックルームが有るじゃないか!」という、予期せぬ一撃を喰らいました。
私は、「バックルームを減らしたら、もっと売場を広くできる」という意味だったと理解しました。
私は、「このオッサン、えらい事言うな・・・」と、正直その時は思いました。
しかし、すぐに我に返り考えました。
言われてみればその通りなのです。売上は売り場から生まれるのですから、売場を広くするという事は、非常に重要であるし、当たり前のことです。
要は、「だから、どうする!・・・ということを考えろ」ということなのです。
勉強不足で、物事を狭い視野しか見ることが出来ていなかった自分に、目からウロコの大きな発見をさせて頂きました。
この様に、どこに目標(視点)を持つかが非常に重要でありますし、それが、高いものになればなるほど、脳みそに汗をかく事になります。
しかし、時間の経過とともに、確実に基準レベルはアップします。
だからどうする・・・?
在庫が、少なくなれば、最低限のバックヤード面積で済みます。
管理作業量も少なくてすみます。その分、売場を広くできます。
そう考えると、ベンダーから入荷する時点で、それらの商品に、必要以上に余分な数が有ってはいけません。
納品ロットが適正であれば、バックルームの在庫がなくなり、補充のために、在庫をバックルームで探すという作業自体が無くなります。
その分、投入人時数が減ります。
担当者は余った時間で、売り場管理の作業やお客の対応に専念できます。
だから、センターからの納品ロットの改善(適正化)が求められるのです。
また、発注量と必要補充量のギャップを少なくすためには、発注から納品までのリードタイムも短いことが理想でしょう。極端に言えば、お客様の少ない夜間や閉店後に発注して、次の日、担当者が出勤する前に店舗へ納品されることが理想でしょう。
発注制度も大きく向上し、店舗全体の在庫も適正量に保たれます。
そして、一連の仕組みが、例外なく、定時定例で行われることが条件付けられます。
作業は日々平準化され、従業員の出退勤計画も組みやすくなります。
曜日毎に大きく変わる納品量によって、作業が思うように進まないというような、現場のストレスも大幅に改善できると思います。
仮に深夜や早朝の作業が必要になって、作業員の時給がアップしたとしても、作業の処理スピードの速さで、十分に補うことが出来るでしょう。
仮に人件費がトータルでアップしても、その他で十分なメリットを得ることが可能であると思います。
全てのことが改善可能でなくても、一つでも改善できれば、確実に生産性はアップすることになります。
どこに目標を設定するか
上述の事を「理想だ」の一言で終わらないでください。
先程も言いましたように、目標をどこのレベルに設定するかということが、重要なポイントなのです。
その要求レベルによって、遣らなければならない事が変わってくるだけなのです。
決して、難しいことではありません。
目標を高いレベルに設定すれば、売場在庫の“量(金額)”から、その“質(中身)”に焦点を当てることになります。
例えば、グロサリーでは、日々の販売量の多いものは、定番の棚のフェイシングを拡大し、在庫量を増やします。
回転日数を下げて、発注回数と補充回数を低減し、投入人時数を低減する努力をすることになります。
逆に、販売ランクが低い物については、フェイシング、在庫量共に削減の対象となります。

そして、重点商品の販売量の拡大に努めます。
陳列位置の変更や関連販売。陳列演出やプロモーションなど差別化をはかります。
結果として、視認率や立寄り率、そとて、買上げ率のアップに繋げるという、直接的な行動に人時を戦略的に投入します。
これらのことも在庫管理なのです。
“作業の質”が変わってきます。視点を変えれば結果は大きく変わります。
現場最適化が基本
在庫に関わる一連のことで、絶対外してはいけないことは、“現場最適化”です。
「現場(店舗)の作業工数を減らす」という考えが重要です。
決して、本部やセンターの最適化ではいけません。
「現場の負担を如何に減らしてあげることが出来るか・・・」
「単純作業の工数を如何に減らしてあげることが出来るか・・・」
それが、本部の仕事の基本なのです。
そのことによって、現場では時間の余裕が生まれます。
情報発信のためのPOPや試食販売など、付加価値業務の遂行時間を確実に増やすことが可能になります。
お客様に対するサービスレベルの向上によって、客単価を伸ばす可能性が高まります。
競合店に対して、確実に競争優位性を高めることが可能になっていきます。それが、成果を出す戦略です。
本部やバイヤーは、目先の物流費や商品原価などという、狭く表面的な見識だけではいけません。
顧客満足と従業員満足を考える
1.品質が良く、高鮮度の商品をお客様にお届けすること。
そして、
2.現場の単純作業の工程(数)を削減する。
この2点が、在庫管理の重要な視点であり、今後、競争をする上での『差別化戦略』と『生産性の向上』に、大きな関わりを持つことになります。
次回からは、より具体的な事例を紹介しながら、改善のヒントをお伝えしたいと思います。











