スーパーの業務改善入門

2020年03月11日

大胆な戦略的マージンミックス 【月刊商人舎2月号・原稿】

まず、「安さとは何か?」を考えることから始める必要があると思います。

お客が「安い」という場合、絶対的な価格と、相対的な価格があります。
絶対的な価格は、競合店の売価に対して、自店の価格を比べるときの売価です。
一方、「この商品価値なら納得の価格」と言うように、お客がその商品の品質と売価に対して、値ごろを感じるような、相対的な価格があります。 そして、お客が持つ、個人の価値観から「安さ」の意味は変わります。

注意が必要なことは、売る側の懐具合からくる「安さ(値ごろ感)」と、お客の考える「安さ」には、ギャップがあること理解することも重要です。

お客は、『売値』と『価値』とのバランスを賢く判断して、購買を決定しているのですから、大まかですが、どこでも売っているNB商品(コモディティ)は、低価格を提示することになります。
そして、ローカル商品やこだわり品(ノン・コモディティ)などは、その価値をお客に伝えて、価格の妥当性や値ごろ感を訴える活動に力を入れることが重要となります。


「他所の売価なんか見るな⁉」


私はクライアントに、「他所の売価なんか見るな‼」と教えています。

これは、野菜や鮮魚など生鮮部門のことですが、その真意は、実際にそのことによって、担当者が、お客に提供する商品の価格ではなく、価値を先に考えるようになってもらいたいからです。

売価を先に考えると、当然競合店のことが気になります。
しかし、本当に考えなければならないことは、ターゲット顧客に対して、「お客のためになる商品は何か」を問い続け、それに該当する商品を選定し、提供すべきだと考えるからです。

これは、綺麗ごとを言っているのではありません。
事実私のあるクライアント(中小企業)は、昨年の夏と冬に臨時ボーナスを出しました。
この企業は、地方で2店舗を運営していますが、この1~2年で、上場企業のドラッグストアが、なんと3店舗出店してきました。野菜や果物、肉なども取り扱っています。
そして、今まであった競合を含め、ドラッグストア5店舗と競合しています。

1店舗目が出て来ることがわかった時、改めてコンセプトと行動指針を立てました。
その時に私がクライアントに言った言葉が、「他所の売価なんか見るな⁉」です。
「鮮度と味で、地域ダントツ1番を目指そう」ということの意味です。
顧客にとって、本当に「お得で良い買い物をしてもらう」ための行動をするということです。

更に、付け加えたことは、「グロサリーの売上と粗利益は、毎年下がる」と言うことです。
ですから、「他所で売っていない良いものを売ろう」ということを考えて、行動してもらっています。
これらの日々の努力で、先述した成果に繋がったのです。

競争で苦しんでいる店舗は、基本的に、ここのところを理解してもらいたいと思います。


「値ごろ感」を出す‼


実践的マーケティングで理解しておきたいことの一つが、フロントエンドとバックエンドです。

フロントエンドは、お客の支持率の高い商品を低価格で販売することや、楽しいイベント企画などを、新聞折込みチラシなどの広告媒体を使って、商圏内の潜在顧客に訴えて、集客率を高めるという手法です。
来店客数を増やすことを目的としたマーケティングの仕組みのことです。

一方、バックエンドは、来店したお客に、粗利益がしっかりとれる商品やサービスを買ってくれるようにする仕組みのことを言います。
バックエンドは、商品自体の価値や、お客がそれを買う(使う)ことによって得られるベネフィットを、効果的に価値情報としてお客に伝えることが重要です。

フロントエンドとバックエンドは、昔から商売で言われている、「損して得取れ」に近いものです。お客は、安さと値ごろ感を体感することになります。
フロントエンドの『低価格』とバックエンドの『価値』を効果的に使い分けることによって、自店の営業戦略モデルを完成させます。

そのことによって、集客率と買い上げ率を高めることに繋がります。


実践的マーケティング手法を使う


ドラッカーの有名な言葉で、「マーケティングはセールスを無用にする」と言うものがあります。
これを実践的に言うと、「売れてしまう仕掛け(仕組み)を作る」ということです。
この時に重要になってくるのが、POPや試食、陳列演出などのプロモーションです。

値ごろ感を感じさせるプロモーションの事例を、幾つか紹介します。

①糖度表示と売価
果物の糖度をはかって、それをお客に伝えます。
そのことによって、お客から見た『値ごろ』を演出することが出来ます。
また、販売するほうも、品質に対する知識と意識を高めることが出来るようにもなります。

  写真① お客の支持を得て、高糖度トマトの売上比率が圧倒的に高い売場

②コピーライティングの技術
「商品を知って、納得して買ってもらう」ための技術です。
商品が良いから売れるとは限りません。
ターゲット顧客に対して、十分にその商品自体の価値や、使うことによって得られるベネフィット(お客の得)を伝えることが出来れば、商品は売れていきます。
「売れてしまう」仕組みを作る技術のことです。

③試食販売
糖度表示と同じように、お客に対してダイレクトに、商品の味を伝えることです。
お客は、味を確認した上で、納得したものを買うことが出来ます。

④圧倒する迫力感で値ごろ感を出す(100円均一)
品揃えや、マージンミックスで売り場を作り、お客の期待を超えることで、商品は動き出す。
写真は、40アイテムから50アイテムを集合させて作った、100円均一市の売り場。

これらの事例は、マーケティング手法のほんの一部ですが、このようなことの技術力を高めることで、『値ごろ感』を演出する活動を、ルーティンとして日々実行します。
そのことで、お客の納得の上で、粗利益を高めることを実現して、確実に営業利益を高めることにつながるのです。


戦略的にマージンミックスを活用する


ドラッグストアも、薬や化粧品と食品や日用品などとのマージンミックスをやっているのです。
単純に、スーパーマーケットもそれを、戦略的に、そして科学的にやればいいのです。
そのためには、「うちの会社としては、どういう形が考えられるか」を真剣に考えることです。

ここでいうマージンミックスは、一般的な粗利益をコントロールするマージンミックスと、部門別損益をコントロールするマージンミックスです。

粗利益をコントロールするマージンミックスは、部門やカテゴリーのマージン(粗利益率)ミックスです。
競合店の『安さ』に対して、自店の強みを生かしながら、お客に対しての低価格を打ち出すカテゴリーと、確実に粗利を稼ぐカテゴリーとに分けて運営し、粗利益率をコントロールするのです。
お客が、安さや値ごろ感を感じるために有効です。
具体的には、NB商品や玉子など、支持率(PI値)の高い商品(カテゴリー)の低価格を打ち出して、その他の商品やカテゴリーで、粗利益を確保して、全体の粗利益高(率)予算を確保するというやり方です。

しかし、これには限界があります。競合店も同じようなことをやってくることも、十分予想されるからです。

これに対して、戦略的なマージンミックスは、部門別損益を活用したマージンミックスです。
部門別損益を算出して、各部門の営業利益を活用して行うのです。
より戦略的なやり方であり、商圏内で自店のポジショニングを設定するという上でも、重要な戦略です。

要するに、人件費を含むすべてのコストを「ケチる部門(カテゴリー)」と「掛ける部門(カテゴリー)」。
また、粗利益を稼ぐ部門と、低値入で低価格を打ち出す部門とに分けて考え、実践することによって、お客の感じる安さを実現するのです。
もし、ここが理解できなければ、専門家に聞くことが早道です。それが、競争が厳しくスピードを求められる時代に重要な『リーダーの仕事』と言えます。

戦略部門の設定は、自店の置かれた競争状況や自社の強み、また、各部門の損益(営業利益)状況などによって、やり方(戦略)が異なります。

大まかな話しになりますが、洋日配や加工食品など価格設定は、中立化を意識して、ドラッグストアの売価に近づけます。
しかし、大きく下回ってしまうようなことをして、相手を刺激して、地域で消耗戦になっては意味がありません。
特に、資本力のない中小の企業は、絶対に避けるべきです。
また、加工作業が無いグロサリー部門全体は、店舗レイアウト、陳列什器、陳列作業など、特にランニングコストを計画的に低減する日々の改善活動が重要になってきます。

生鮮に関しては、野菜など支持率の高いカテゴリーを、値入を抑えて低価格で販売することは、店舗の日々の集客自体を高める効果がありますので、実行効果が大いに期待できます。

また、惣菜品全般は、差別化商品を作り上げることが出来れば、値入れを高くすることも出来ます。
そのことで、人時生産性をアップすることが可能となります。

この様に、部門別の営業利益のマージンミックスを行うことで、自社独自の営業戦略を構築し、お客に対して、『安さ』を十分に打ち出し、且つ、『味』や『鮮度』を確実に高めていくことが出来るようになります。


生鮮強化は必須課題


低価格販売を実現するために重要なことは、継続的に実行可能な仕組みを作り上げることです。
ローコストオペレーションを実現して、売価を下げるという『正しい手順』を組み実行することが重要です。
目先の売上を追うような単なる安売りは、確実に会社の体力を低下させることになってしまいます。

例えば、2019年度のコスモス薬局の粗利益率は、約19.9%で、販売管理費率は15.9%。営業利益率は、約4%となっています。
そして、食品の売り上げ構成比率は、約56.3%です。

販売管理費率の高いスーパーマーケットは、このような店舗が近くに出店することは脅威です。特に、生鮮部門が強くない店舗は、劇的に売上を落とすことになるでしょう。

スーパーマーケットが生き残るためには、生鮮部門の活性化は必須であり、重要課題であると言えます。


コスト削減による低価格の実現


一方、コスト削減ですが、人件費、販促費など損益計算書の経費のすべてが例外なしに対象になります。
そして、その中でも、圧倒的に経費率が高いのが人件費です。
作業訓練や仕組みの見直しなどによって、投入人時のムダを無くして、生産性を高めていくことが、コスト削減では一番貢献度が高く優先すべきことです。

例えば、FLコストを考えて、現場作業の改善を考えることは、効果的です。
FLコストは、食材原価と人件費を足したものです。
FとはFood(食材費)、LとはLabor(人件費)の略です。
飲食業界で使われる数値であるのですが、スーパーマーケットの業界では知らない人も少なくないかもしれません。

商品原価だけでなく、商品加工や陳列など、入荷から、お客が買い上げるまでに、それぞれの単品に対して掛けている(掛かってしまっている)人件費(投入作業人時)の総和の低減を実現するという考え方です。
FLコストを下げることが出来れば、単純に売価を下げることが可能となるのです。

また、チラシ広告などの広告費用と、その効果測定も重要です。
カラーで綺麗なチラシを作っていても、集客率が低ければ、ムダな経費を使っていることになります。

この様に、経費比率の高いものを重点的に、費用対効果の効果測定をすることを強くお奨めします。


※FLコストに関しては、商人舎WEBコンテンツ1月号で解説していますので、参考にしていただければと思いますこ。


価格だけのお客を相手にしたら儲からない!


最後に、「お客は、価格だけを見て買い物しているのではない」ということを正しく理解することが重要です。
競争が厳しくなり、売上の低下を気にして、利益の伴わない短期的な安売りをするようなことは、絶対に避けるべきです。

努力するべきことは、先述したような改善活動を確実に行うことです。
日本の多くのスーパーマーケットは、生産性が低いと言えます。
逆に言えば、業務改善を行い、ムダなコストを削り、生産性を高めることは十分可能であるし、そのための方法は、幾らでもあると言えます。

当然のこととして、価格競争だけを考えていては、店は存続できません。これは、大手企業でも、例外ではないことです。
そして、低価格だけを重視するお客を相手にしていては、ビジネスは儲からないのです。


クレームを言うお客も多くなって来ます。

競争上、必要最低限の低価格戦略を行うことは必要でしょうが、「価格以外の価値」に焦点を当てて、コンセプトを見直し、戦略的に売場づくりを考えるべきです。


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