スーパーの業務改善入門

2021年01月08日

アフターコロナで確実に成長するための「店長の業務改善/ムダとりの極意」       【食品商業2月号・原稿】

ムダ取りは、目的でも、目標でもなく、単なる手段です。
しかし、その考え方と行動は、生産性をアップする目的の上では、非常に重要であり、その改善行動は、実に大きな成果を生み出します。
私は、スーパーマーケットを中心に、業務改善のコンサルタントをさせていただいています。
スーパーマーケットの多くの現場(店舗、本部)には、数えきれないほどの多くのムダが存在して、生産性を低下させ、結果的に、会社の営業利益を低下させ、従業員の低報酬という結果を生んでいます。

これは、単なる時間とお金を浪費しているということだけではなく、『戦略を実現するための大切な時間』を奪ってしまうということになります。

今回の記事は、机上の空論ではなく、日々クライアントを指導する、現場の事実を交えながら、ムダを減らし確実に生産性をアップさせることの意味と、方法について解説していきたいと思います。


 

 “ムダ”とは、どういう意味か?


ムダとは、単に「役に立たない、効果がない」ということに留まりません。

業務上のムダとは、時間とお金(利益)を生まないことに浪費してしまうことです。
また、「お客のためにならない行動」「お客の喜びに繋がらない行動」すべてが、ムダであると言えると思います。そして同じく、「従業員の成長に繋がらないもの」とも、表現できます。

営業戦略上、ムダは、原価(FLコスト)を押し上げることになります。
例えば、過剰な在庫は、保管経費、探す手間、鮮度低下や汚損破損、運搬や移動、作りすぎ、出しすぎ、値引き、廃棄などという様に、多くのロスと作業を発生させることになります。(図①参照)
その分、目標の粗利益や営業利益を確保するために、値入率を高くせざるを得なくなり、売価が高くなりますので、結果的に競争力は低下する方向に向かいます。

 ※FLコスト:F=food(原価、材料費)、L=Labor(人件費) を足した費用のこと


 ロスと利益の相関関係と対策


生産性を高めるという前提で言うならば、ムダとは、ロスと同意語です。

次の図①は、営業利益の相関図になります。
それぞれのロスを低減することができれば、粗利益高や営業利益高、そして、売上高を高めることができるのです。

【図①】損益管理・相関図 ロスは、結果として、時間とお金をムダにしてしまうことになりますが、特に、時間は有限であり、過ぎた時間は、二度と戻ってきません。
時間をムダにした場合と、有効に使った場合とでは、生産性や営業利益に、とんでもない差を生むことになります。
そして、対策としては、図①の【原因1~3】などの課題を改善することになります。


 “ムダ”の棚卸し

 
現場に視点を置いてみると、そこには、多くのムダが見つかります。

多くの現場で見かける、ムダの事例をいくつか紹介すると、
【物理的なもの】
① 過剰な在庫
② 過剰な、店舗や設備投資
③ 過剰な人時投入(予算無し、稼働計画書無し)
④ 作業遂行能力の低さ(指示書無し、手順・方法の悪さ、個人スキル不足)
⑤ 作業道具の不備
⑥ 効果測定の無い(低い)広告チラシ配布(販促経費)
⑦ 水道光熱費の浪費
⑧ 多くの紙の配布(会議、通達、FAXなど)
など

【人為的なもの】
⑨ 生産性の低い会議
⑩ 計画のレベルの低さ(無さ)
⑪ リーダーの単純作業遂行
⑫ 教育と訓練計画(実行)の無さ
⑬ 目先の売上を追う活動
⑭ やる気の出ない人事評価制度
⑮ 離職率の高さ
など、
その一部ですが、多くの現場で、容易に発見することができます。

そして、先述した過剰在庫(主因)の事例のように、そのことが、関連する多くのムダ(従因)をさらに、誘発することになるのです。
レベルの差はあれ、これらのムダが、日々、時間とお金を浪費し続けることになります。


 マーケティング思考とローコストオペレーション思考


少し見方を変えて、戦略思考を考えてみたいと思います。

次の図②は、社内(店内)で使っている総人時を、『付加価値業務』と『単純作業』に分けて考えています。競争が激化し、その内容も高度化(複雑化)する中で、今後営業戦略上、進むべき(取るべき)人時活用法を表しています。

【図②】付加価値業務と単純作業の考え方 単純作業は、商品加工や補充品出しなどのように、新人の社員でも、ある程度の短期間でスキルを習得することができる作業のことです。
一方、付加価値業務は、戦略策定や各種計画、教育訓練などのように、売上、粗利益アップに直結するような作業(行動)のことです。

簡単に説明すると、作業動作や仕組みの改善を行い、「単純作業の投入人時を減らす」こと、そしてその分、「付加価値業務を遂行する時間を増やす」という考え方です。

『マーケティング思考』とは、簡単に言うと、「売れる仕組みを作る」ということです。
ターゲティングとポジショニングを明確にして、営業戦略を立て、行動計画を立てて、それを確実にチームとして、日々実行するということです。

『ローコストオペレーション』とは、簡単に言うと、「仕入れてから、お客に商品を届けるまでの一連のコストを徹底して下げる」ということです。

これらの二つのことが確実に、遂行され、そのレベルが上がれば、お客の高い支持を得て、営業利益は、飛躍的に拡大することになります。

 ※ターゲティング:多くの潜在顧客の中から、来店してもらいたいお客(客層)を決めること
 ※ポジショニング:ターゲット客に対して、自店の立ち位置(遣ることと遣らないこと)を決めること


 ビジネスの目的は、営業利益の拡大


ビジネスの目的は、稼ぐことです。

会社は、適正な利益を確保できなければ、存続できません。
そして、ある程度の手元資金の余裕がなければ、成長するための学習(視察、研修、コンサルティングなど)を受けることも難しいと言えます。

企業の成長と発展のためには、従業員の教育訓練や生産効率を上げるための設備などに投資をすることが必要です。それらを実現するためには、資金が必要になります。
そして、前向きな投資は、戦略的に、そして、計画的に行うことが求められます。営業利益の拡大や従業員の報酬アップは、その成果となり、そのための業務改善のサイクルを回すことが重要です。

「ビジネスの目的は」と聞くと、「お客様の満足」と答える人も多いですが、それは、企業の存続意義や、理念やコンセプトのことです。
どの様なビジネスでも、『お客の支持』が売上を向上させて、会社の利益(稼ぎ)を高めることに繋がります。そのためには、適正な利益を確保することが、必須なのです。


 業務改善の実例と事実


まずは、次の表①、②をご覧ください。
これらの表は、私のクライアント(地方で3店舗運営)の部門別損益の実績表になります。(クライアントには、投稿の許可を得て掲載してあります)

表①は、青果部門の月別・部門別損益管理表です。

この表で、一番に確認したいことは、
① 各月の部門の営業利益高の前年対比の増減
そして、それを構成する、
② 粗利益高の前年対比の増減
③ 人件費の前年対比の増減
さらに、生産性の指標である、
④ 人時生産性と人時売上高
になります。

【表①】部門別・月別推移、損益管理表 詳しく見ていくと、売上高(前年対比)の伸び以上に、粗利益高の伸びが大きいことがわかります。
また、人件費は、前年対比で7%程度下回っています。
結果的に、営業利益高(粗利益高-経費合計高)は、月平均約200万円程度増えていました。

付け加えるならば、このチームは、前年から業務改善を行っています。一昨年の営業赤字の実績に対して、昨年は赤字幅を大幅に縮めました。
今年は、それをさらに改善を加えて大幅増益で、完全黒字化を達成しています。

一方、人時効率を見てみると、売上高は伸びていますが、投入人時は、前年対比86%程度です。
結果的に、人時売上高(売上高÷投入人時)の伸びが、約125%、人時生産性(粗利益高÷投入人時)が、約130%の伸びを実現しています。
このことが、営業利益の拡大を確実にして、『稼ぐ』ことを実現しています。


 売上が伸びなくても、営業利益は大幅に増やせる⁉


次の表②は、店舗の月別の推移表になります。

コロナ禍の影響もあり、売上高は好調に推移していましたが、徐々にその効用も薄れつつあります。(8月に、ドラッグストアが商圏内に進出、9月・前年対比99.6%)

営業利益を見てみると、3月(268%)、4月(1970%)、5月(1436%)、6月(1289%)、7月(412%)、8月(231%)、
そして、9月の営業利益は、売上高は前年割れの99.6に対して、435%を達成しました。

【表②】月別推移、損益管理表 この事例を紹介した、一番の目的は、小さな企業でも、現場のムダをなくして、遣るべきことを遣れば、確実に営業利益(儲け)を拡大できるということです。

そして、次の成長のために投資をするという、正しい成長戦略を実行することが可能であることをご理解いただけると思います。


 基本原則を学び、実践する‼


今回の事例企業も含め、私は、クライアントに対して、「目先の売り上げを追うな‼」と教えています。

それは、安定的に、そして、確実に営業利益を拡大させるためには、実践的マーケティングやローコストオペレーションなどの基本原則を正しく学習することが重要であるからです。
そのことをしないで、特売などで目先の売上を追うとどうなるか。多くの場合、粗利益率を落としたり、経費率(人件費)が高くなったりして、営業利益を大きく下げてしまうことが多いからです。
そして結果的に、頑張っているのに、給料は増えない現実になるのです。

基本的に理解しなければならないことは、売上は、「儲けではない』ということです。

特に今後、コロナ禍特需が無くなり(アフターコロナ)、ドラッグストアやディスカウトストアのさらなる進出、そして、冷え込む消費者心理を考えると、『売上高は伸びない』という前提で、営業戦略を考える必要があります。


 業務改善の種を蒔く


天才エジソンは、白熱電球を開発するのに、一万回の失敗を重ねたと言います。
しかし、エジソンは、それを、「失敗ではない。うまくいかない一万通りの方法を発見しのだ」と言ったそうです。

現場のムダを理解して、取り除くことも、「効果を出さない方法を知る」ことになります。

経験の浅い人が、チャレンジして失敗することはムダではないと思います。新たな行動を起こさないでいるベテラン社員の方が、ある意味ムダです。
先述した事例の企業も、決して、多くの知識や特別な能力を持っていたチームではありません。
基本原則を徐々に学習して、改善行動を素直に、前向きに行った結果なのです。

生産性を上げるためには、作業を「簡単に」「早く」、そして、「楽に(楽しく)」することです。
そのために、基本原則を学び、効率よく、ムダ無く行動することが重要です。

【図③】職位と仕事と戦略的時間活用 リーダー自ら、ムダな行動を確認し、行動を正すことです。単純作業を遣って、「仕事をしているつもり」になっていてはいけません。
図③のように、リーダーは、将来の良い結果を出すための仕事に、多くの時間を使うべきです。

店長は、日々現場で、お客や従業員に関わり、『現場の問題点の発見や課題設定を行う』という、重要な職責を担っています。ですから、リーダーの時間の使い方で、チームの将来の結果は、大きく変わることになります。


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