スーパーの業務改善入門
2024年08月05日
「人手不足と賃金アップ」ピンチをチャンスに変える‼ 中小SMの業務改善:実践事例
「なんぼ募集しても、応募は全く有りませんわ・・・」
先日、訪問の折、クライアントの社長からのため息交じりの一言です。
賃金が確実に上がり、最低時給程度で募集を掛けても何の反応もない・・・。人手不足は、多くの人員を必要とするスーパーマーケットでは深刻な問題です。
中小零細のSM(スーパーマーケット)企業では、
①給与の低さ
②長時間労働の慢性化
③土日や祝日の休暇の取りにくさ
などの問題を抱えている場合が多いと思います。
ITが進化し、就職のための会社情報が簡単に集められる現在、これと言った対策を何も講じていなければ、従業員の採用は非常に厳しいと言えます。
そして、少子高齢化で確実に減り続ける働き手。地方では人手不足で閉店を余儀なくされた店舗も出てきています。
IT関連など、生産性の高い仕事への構造的な労働力移動も考えられる現代。打つべき課題はある程度ハッキリしていると私は考えています。
【8月2日、日経電子版】の記事から
(前略)
青森市内のあるスーパーが営業を終了したとある。担当者は「企業努力だけでは解決の見通しがない」と嘆く。求人広告を出しても応募がほとんどなかったという。人手不足を理由とした閉店だ。
(中略)
23年の就業者は6747万人。各年代の就業率が変わらない前提で試算すると、24年は全体の0.5%にあたる30万人超が減る。これからは毎年30万〜70万人の自然減が見込まれ、就業者は30年に6500万人、60年は4900万人となる。
国立社会保障・人口問題研究所(社人研)によると15〜64歳の生産年齢人口はピークの1995年に比べて23年は15%減った。それでも女性や高齢者の労働参加で、就業者は約300万人増えた。
その働き手の「予備軍」は枯渇が近づく。今は職に就かず仕事を希望する人は、15歳以上の3.7%に過ぎない。03年の8.0%の半分以下と大きく減った。
企業は次の一手を打つ。イオンは24年度からグループ40社で、同じ業務を手がけるパートの待遇を正社員と同等にする制度を順次導入する。総合スーパーを展開するイオンリテールの場合、昇格試験に合格し、月120時間以上働くことが条件となる。売り場責任者として約150人が登用され、一部地域では年収が2割程度上がったという。
同社は4月末、人工知能(AI)の業務システムを導入した。40万人いるすべてのパートにAIを活用する研修をしたうえで、1週間から1カ月先までの販売計画を各店でつくる。リスキリングで生産性を高め、中核業務をパートに移す。
(中略)
正社員に比べ景気に左右されるパートは賃上げの動きが急だ。5月のパートタイム時給は前年同月比4.1%増と、正社員基本給の2.6%増を上回る。よい時給を提示しないと、人手は確保できなくなった。
人手不足をチャンスに変える生産性アップという賢い考え方
日経新聞の記事にもあるように、スーパーマーケット業界は深刻な人手不足に直面しています。
そしてこれは、今現在の短期的な問題ではなく、構造的に今後も続くと理解しておく必要があります。
このことを前提にすれば、中小零細SMは、現状の店舗運営自体を完全に一から見直す必要があります。
そして、生産性を高めるための行動を起こす絶好のチャンスであると前向きに考えてほしいと思います。
本記事では、人手不足を克服するための具体的な実践方法のその一部を紹介します。
1. 在庫削減、適正化
生産効率に大きく関わるのが在庫です。
①鮮度の高い商品を顧客に届けるという視点
②店内物流の高い効率を実現する
という2つの視点から、在庫を科学的に適正に管理することが求められます。
基本的には、ジャストシステム(必要なものを、必要な時に、必要なだけ)を念頭に、ムダな在庫は持たないことが重要です。
【具体的な事例】
①バックルーム在庫
基本的には、ゼロにすることを考える。
在庫が過多であると、ムダな移動や片付けなどの作業が発生する。また、生鮮品を中心に鮮度低下や見切りや廃棄の商品ロスと作業が発生する。
これら全てが、ムダな作業とコストが発生して生産性を確実に低下させる。
②定番在庫
POSや季節指数データなどを活用して、適正陳列量を割り出す。
売れ筋商品は出来だけフェイシング数を拡大し、陳列在庫を増やす。売れ行き不振商品は、改廃のスビートを早める。
商品ごとに、補充作業を減らす視点と回転率を高める視点とを持つこと。
③在庫処理
生鮮品はもとより、日配品やグロサリー商品においても、見切りコーナーを特設して早期に取り掛かり、短期で処理してしまうこと。基本的に廃棄を起こさないこと。
2.作業プロセスの見直しと標準化
まずは、店舗内のすべての業務プロセスを詳細に見直しましょう。 各業務のステップを洗い出し、ムダに行っている作業や重複しているタスクを特定します。
これを基に、標準化された手順書(※1マニュアル)を作成し、全スタッフが一貫した方法で業務を行えるようにします。
これにより、作業の効率化と品質の均一化が図れます。
特に、『人時売上高を向上させる』という考え方と視点が重要になります。
※1紙よりも、動画で作成するほうが、作成時間を短縮でき、理解力も高められる。
①発注業務
販売計画をもとに、POSデータ(売上、販売数量、商品ロス、販売推移など)を検証し、発注点(在庫)とリードタイムを勘案して予測数量を割り出す。欠品や過剰在庫を起こさない適正量を発注する。
発注の出来不出来で、店内作業工数を左右し生産性に大きく関わるため、担当者のスキルアップ計画も重要となる。
②商品化業務
加工指示書を作成し担当者の待機時間を無くし、ジャストシステム(必要なものを、必要な時に、必要なだけ)で加工する。
作り過ぎを無くすことが重要。
③補充作業
商品の補充作業を標準化し、具体的なガイドラインを作成することで、新しいスタッフでも迅速かつ正確に陳列できるようにする。
特に、カートの効果的な活用や両手作業、処理時間など動作経済を意識する。
これらは重要な改善対象課題となり生産性に大きく関わる。
3. 自動化とテクノロジーの活用
最近のテクノロジーの進化は、スーパーマーケットの業務を大幅に効率化するツールを提供しています。
例えば、セルフレジや電子棚札、在庫管理(自動発注)システムなどを導入することで、スタッフの負担を軽減し、顧客満足度も向上します。
特に在庫管理システムは、リアルタイムで在庫状況を把握できるため、無駄な在庫を減らし、欠品も防ぐことができます。
【具体的な事例】
①セルフレジ、セミセルフレジ
セルフレジやセミセルフレジなどを導入することで、顧客自身が会計を行い、スタッフのレジ業務負担を軽減し、レジ部門全体としての人時数を削減する。
お客のレジ待ち時間の不満も大幅に改善できる。
②電子棚札
電子棚札を導入し、価格変更を一斉に行うことで、POPの差し替えや確認作業など売価変更作業を省略し、作業人時を節約する。
③自動発注システム
POSシステムと連携した在庫管理システムを導入し、推定在庫をリアルタイムで追跡することで、設定した発注点(在庫)から自動で発注を行うことで、欠品や過剰在庫を防ぐ。
また、これに関わる単純作業の人時を削減する。
4. 店舗レイアウトの最適化
店舗のレイアウトも、ムダを削減するための重要な要素です。
商品の配置を見直し、顧客が効率的に買い物できるようにすることで、スタッフの業務効率も向上します。
また、作業動線の最適化によって、スタッフがより効率的に作業できる環境を整えることが可能です。
【具体的な事例】
①カテゴリ別(用途関連)の配置(ゾーニング)
顧客が一箇所で関連商品を見つけられるように、商品カテゴリ(用途関連)ごとに配置をまとめる。
②レジの配置
レジを客動線が長くなるように配置(通常、青果側)し、顧客が店舗全体を効率的に回れるようにする。
③バックヤードの配置
バックヤードの作業動線を最適化(基本、短く)し、スタッフのムダな移動が発生しないように、各バックルームと什器や設備の設置を科学的に行う。
5. パート社員のスキルアップ
簡単な単純作業を処理するための単純労働者としてではなく、戦略実現のための人財として活躍してもらうことを念頭に置きます。
パート社員の研修を充実させることで、高い技術を有した即戦力として活躍してもらうことが可能になります。人時売上高と生産性を高めるためのプロセスを設計して実行します。
また、必要な時間帯には高い時給を支給することも、売り逃しを減らし売上高を高めるためには重要なことです。
【具体的な事例】
①基礎作業の処理能力アップと主体業務へのシフト
単純作業への投入人時削減のための訓練を行い、その実行レベルを高めること。
販売計画や発注、営業POPの作成や試食販売など販売力を高める人材として登用する。
②マルチタスク化
陳列や品出し、商品加工やレジなど、一人で複数の仕事を受け持つマルチタスク化を推進する。必要に応じて柔軟に配置をコントロールする。
③人事考課
基礎業務、戦略業務(目標)に対して、その出来栄え(貢献度)に応じて公平に評価し、個人の次の目標設定を行うという、やる気の出る人事考課制度を整える。
6. チームコミュニケーションの強化
スタッフ間のコミュニケーションを強化することも重要です。
定期的なミーティングや情報共有の場を設けることで、戦略の実行状況や問題点の早期発見など、迅速な対応が可能になります。
また、スタッフ一人ひとりの意見を尊重し、働きやすい環境を作ることで、モチベーション向上にもつながります。
【具体的な事例】
①朝礼・夕礼の実施
毎日の朝礼や夕礼を通じて、当日の業務内容や注意事項を全スタッフと共有する。必要に応じて課題設定と修正も行う。
②フィードバック制度
定期的なフィードバック制度を導入し、スタッフの意見や提案を積極的に取り入れる。
③チームビルディング活動
「各メンバーの持つ経験や能力を最大限に発揮して、チームの目標を達成出るチームを作り上げる」というチームビルディング活動を定期的に行い、スタッフ同士の信頼関係を深める。
【 結 論 】
人手不足は確かに大きな課題ですが、それを解決するための方法は数多く存在します。
店舗内のムダを徹底的に排除することは勿論ですが、本部の指示命令系統で店内工数を増やしてしまう事例も少なくありません。
サプライヤーなど利害関係者も含めた徹底したムダの撲滅を図る業務改善を進めることで作業工数を減らし、人手不足を解消することも十分可能です。
また、改善が進まない一番の原因が、今までの作業方法に捉われて「できない理由」をいうベテラン社員がボトルネックになる場合もあるでしょう。
「高い時給を提示しないと、人手は確保できない」ということを念頭にして、
①ムダな作業を例外なく減らす
②スキルアップ計画を確実に実行する
など、新しいアプローチで店舗と本部の運営を見直してみましょう。
高い生産性を実現することで、従業員の高い報酬を実現することが出来ます。
徹底して例外なしのムダ取りを考え実行しましょう。
内部の課題や問題は「意外に解らない」という経営幹部も少なくありません。
その場合は、経験豊富な専門化の意見を聞くという柔軟性も重要です。