スーパーの業務改善入門
2025年05月14日
パート社員の“覚醒”が店舗利益を変える 〜データ活用が現場に火をつけた瞬間〜
スーパーマーケット経営の現場で、もっとも身近で、そして見落とされがちな改善資源。それが「パート社員の成長」です。
現場に根を張るその存在が、ほんの少しの気づきと手ほどきで、大きな利益改善をもたらすことがあります。
今回は、畜産部門でのあるパート社員との対話から始まった、利益改善の兆しをお伝えします。
「データなんて見たことがありません」から始まった一歩
ある地方のリージョナルチェーンにおいて、私は畜産部門の作業改善を支援していました。テーマは「加工指示書の仕組み化」 。
鶏肉を担当するベテランのパート社員に、「POSデータ(販売実績データ)を見たことがありますか?」と尋ねたところ、返ってきたのは「見たことがありません」との答え。
この瞬間に、私はチャンスを感じました。
すぐにチーフとパート社員に「10分ほどお時間をもらえますか?」と確認し、了承を得て、店長・バイヤーにも同席してもらい、事務所で実際のデータ画面を一緒に確認することに。
パート社員はパソコン操作に不慣れながらも、操作手順やデータの見方を熱心にメモ。慣れない作業に緊張しつつも、前向きに学ぼうとする姿勢が印象的でした。
現場にいる“人材”という戦略資源
「人材」という言葉は少し堅苦しいかもしれません。ですが、このベテランパート社員のように、毎日まじめに働いている方の一歩が、実は店舗の利益に直結する「戦略」になり得るのです。
この店舗の鶏肉部門で、売れ筋商品の欠品が防げれば――。
無駄な加工を減らし、廃棄ロスを抑えれば――。
ほんの少しの改善でも、年間で数百万円単位の粗利益改善が見込めます。そしてこの利益は、販促費などに依存しない“純粋な営業利益”として残る可能性が高いのです。
変わるのは、数字だけではない
もうひとつ重要なのは、「行動の変化」です。
このパート社員が、朝一番に自らデータを見て帳票を出し、加工量や発注量の調整を行うようになったとしたら――その意識や姿勢、行動は確実に変わっていきます。
そして、チーフや店長がそれを共有し、一緒に成果を喜ぶような関係性が築かれれば、さらに前向きな改善の循環が生まれます。
やる気が引き出され、仕事への自信がつき、最終的にはその人の人生の充実度にもつながっていく。決して大げさではなく、これは現場の“可能性”そのものです。
スキルより先に、やる気を引き出すことから始めよう
私は業務改善コンサルタントとして、仕組みや手法を提供していますが、最後に成果を大きな生み出すのは「人のやる気」です。
いくら優れた仕組みがあっても、それを活かす“気持ち”がなければ、現場は変わりません。
そして今、スーパーマーケット業界が直面している人手不足・賃金高騰という問題も、一人ひとりの成長によってこそ解決への道筋が見えてきます。
まず- 人に、寄り添ってみることから
今回の事例は、決して特別なことではありません。
皆さんの店舗にも、同じようなベテランのパート社員がきっといらっしゃるはずです。
ぜひ、まずは一人のパート社員に寄り添い、「一歩進むきっかけ」をつくってみてください。
その小さな変化が、売場を変え、数字を変え、チームを変え、会社の未来を変えるかもしれません。
【図解】パート社員による業務改善フロー図(イメージ)

✅ ポイント
データを見る → 自ら考える → 改善する → 成果が出る → 褒められる → もっと頑張る!
このポジティブサイクルが、チームと店舗を前向きに動かします。
【導入・実践マニュアル】
パート社員の“成長スイッチ”を入れる5ステップ
■Step 1 まずは「一人」に注目する
全員を変えようとせず、まずは信頼のおける一人のベテランパートに焦点をあてましょう。
「毎日頑張っている、あの人なら」と思える人を選ぶのがポイントです。
■Step 2 一緒にBOSSデータを見る時間を作る
朝の落ち着いた時間帯に10分ほど、事務所でデータを一緒に見てみる時間をつくります。
「この画面はこうやって見るんですよ」「この帳票が発注の判断材料になります」と丁寧に説明をする。
■Step 3 操作方法は紙に落とし込む
マニュアル化がカギです。
「この順番でやれば見られる」「印刷はこのボタン」など、紙1枚に簡潔にまとめた操作ガイドを用意しましょう。メモ魔のパートさんには、書かせることで理解も深まります。
■Step 4 現場で活用 → 小さな成功を見逃さない
データを見て「加工を1kg減らしてみたら、ピタッと売り切れた」などの小さな成功体験を拾ってあげましょう。
そのときに、「すごいやん!」と、声をかけることが最大の推進力になります。
■Step 5 成功体験はチームで共有する
成果が出たら、店長・チーフ・他のスタッフにも共有しましょう。
「○○さんのおかげで、昨日ムダなく売れました」
このひと言が、本人にとっては何よりの報酬になります。
📌補足ヒント
- 改善は「制度」ではなく「関係性」がつくります。
- パート社員の“成長の見える化”は、育成と評価の第一歩です。
- 「仕組み化」は属人化からの脱却にもつながります。