スーパーの業務改善入門

2020年08月28日

半年で、営業利益2.5倍。「売上が伸びない時代に、稼ぐ方法⁉」【商人舎電子版20・2月号・原稿】

厳しい競争の中、スーパーマーケットは、今後ビジネスをどのように成立させていくのか?

今回は、私のクライアントの業務改善の実践事例を紹介しながら、確実に業績向上につなげるためのアイデアをお伝えします。

紹介する企業も、競合店が多く売上げが伸び悩み、苦労していました。
しかし、これは、日本中で起こっている現象であり、ドラックストアの出店など、さらに厳しさを増す商圏が、日本中に存在すると言えます。

その中で、「どの様にビジネスを行っていくのか?」が、問われている時代だとも言えます。
以下に、半年で営業利益を2.5倍にした、クライアントの青果部門の事例を解説していきます。


現場の課題と改善策


当初、会社全体で業務改善のコンサルティングをスタートさせましたが、なかなか行動を変えられなかったのが、青果部門でした。

そこで、先に、青果部門のコンサルティングを行うことを決定し、営業利益改善の結果を出そうということになりました。
重点的に行った改善内容は、以下のようなことです。

①部門別損益管理(管理会計の実施)を行う

本当に、「儲かっているか?」を確認して、改善行動に取り掛かります。
各店舗の損益計算書を活用して、部門別の損益計算書を作成します。
売上と粗利益だけを管理していたこれまでの方法から、営業利益の拡大を考えている方法に変えていくことにより、担当者の意識と行動が全く変わります。
「黒字か?」、「赤字か?」、そして、「実績の推移はどうなっているか?」と、事実を確認し、改善必要個所を見付け出します。

②オペレーション改善で、コストと時間を減らす

オペレーション関係の課題は、在庫、作業動作、作業指示、マテハン、定位置管理などです。
在庫過多は、確実にFLコストを押し上げます。また、鮮度低下を招き、結果的に競争力を低下させてしまいます。粗利益にもコストにも関係する重要な課題です。
また、在庫が適正でないということは、数量管理が出来ていないということですから、欠品を引き起こす可能性も高まります。
そして、作業改善は、現場とそこで働く従業員の動きを観察し、レベルが低い場合は、必要に応じて、方法や手順など、担当者の修正・訓練を行います。

③実践的マーケティングのスキル・アップで、粗利益を拡大する

マーケティング関係の課題は、品質管理基準、重点商品管理、売場づくりの4P、マグネット展開、商品構成、品揃えなどです。
原則的には、鮮度が良く、味が良いことを常に売場で実現することです。
そして、商品の価値情報をお客に伝えるプロモーション(特にPOPや試食など)が重要になります。
マーケティングは、「売れてしまう仕組み」を構築することです。
一例ですが、関連購買、衝動購買、条件購買、想起購買などの、理論的な理解と、実践により、徐々に担当者のスキルがアップすることになります。
これらのことによって、粗利益率を、確実にアップさせることが出来ます。

④リーダーシップの欠如を改善

チーム
「良い結果を出せない」、「行動しない」ことの原因は、リーダーシップの欠如が大きく関係します。
「言ってるんですけどね・・・」を口にする人の多くは、リーダーシップを取っていません。社長でも例外ではありません。
リーダーの重要な仕事は、部下を育てること。そして、遣る意味(コンセプトや戦略)を理解させて、ムダの少ない行動をさせることです。
言うまでもなく、「やる気にさせる」ためのコミュニケーション力が必要になります。


結果を出すのは、納得できた“人”


とは言え、何の問題もなく、スムーズに業績向上に繋がった訳ではありません。
そして、一つのことが改善出来たら、それで、すぐに大きな成果が出て来る訳でもありません。

大きな成果を勝ち取るためには、幾つかの改善活動と、それなりの時間の経過が必要です。
そして、一番大事なこと、チームを成功へと導くリーダーシップです。

この企業では、私の訪問日の午前中は、商品の鮮度や味、プロモーション、そして、各担当者の作業動作などを現場で確認を行います。
その後、バックルームに全員集合してもらい、立ってミーティングを行います。
参加者は、社長、商品部長、バイヤー、各店チーフ、訪問店担当者と私です。

基本的に、毎回全員参加です。

各バイヤー、各チーフが、部門別損益管理表を見ながら、自店の結果報告を行い、改善活動の実行成果や課題を話し合います。
その後、私が、観察した現場の課題や改善点、改善方法を伝えます。
午後からは、重点課題の解決と原理原則について、私が座学研修を行います。

大きな問題が起こったのは、改善活動をスタートさせて、3ケ月目のことです。
それまで、少しずつ営業利益が改善し、その拡大幅が大きくなっていました。
ところが、3ケ月目の営業利益が、激減したのです。

私は、午後の座学のときに、商品部長と店長を集めてくれるように、社長にお願いしました。
「あなた達は、この1か月間、彼らの改善活動をどの様にフォローしましたか?」
私の質問に、誰もが返答できませんでした。
彼らは、何もフォローしていなかったのです。

「チームの成果が出なかった原因は、あなた達のリーダーシップのなさです」
と、私は、彼らを叱責しました。
しかしその後、全店長が、青果チームの改善活動のフォローをしてくれて、チーム一丸で遣ってくれました。


結果、年末商戦の12月、営業利益前年対比2.5倍を実現してくれたのです。
青果部門バイヤー、各店チーフ、メンバー、店長、部長、全員がチームとして動いてくれた結果が出ました。


自信が、更なる成果に繋がる


今回紹介したクライアントは、原則に沿って、確実に業務改善の手順を踏んでくれています。

しかし、これで全てを成し遂げたということでは有りません。まだまだ、道半ばです。
これから、更にステップアップしてもらいます。

そして、重要なことは、チームメンバーが、「自分たちは遣れる!」という、『自信』を身に着けたことです。
当初自信無さげにしていたチームが、半年で、全く違うチームに生まれ変わりました。

また、このチームは、高い営業利益を出すことが出来るようになったことにより、野菜の低価格販売など、攻撃的な戦略をやる準備が出来つつあります。

今後は、他の部門の業務改善を実施していき、それぞれの部門の特性に合わせたオペレーションの改善や、実践的マーケティングに磨きをかけて実行してもらいます。

そして今よりさらに、「地域で一番愛される。無くては困る」、デスティネーション・ストアになってもらいます。


売上が伸びない時代に、稼ぐ方法⁉


私が、このクライアントに日頃言っていることは、
「売上が伸びなくても、営業利益を拡大させる、仕組みを作ろう」ということです。

今、実際に業績低迷で苦しんでいる会社は、「今のやり方では、営業利益は拡大できない」と理解すべきです。
会社が継続発展するためには、競合、少子高齢化、過疎化の環境の中で、「売上が伸びない時代でも儲かる」やり方に変えないといけないのです。
そのための改善可能領域は、商品構成や品揃え、マーケティング、オペレーションなど、営業活動のほぼ全てと言えます。

マーケティング力を向上させて(付けて)、粗利益を拡大すること。
オペレーション力を向上させて(付けて)、ローコストオペレーションを実現すること。
それによって、『生産性を上げる』ということ。
これらの課題に対して、具体的に計画を立てて、確実に行動することです。
また、解らなければ、学習することです。

今回紹介したクライアントは、自分たちが今まで経験したことのないことを成し遂げ、大きな成果を達成してくれました。
しかし、特別高度なスキルを持ったチームメンバーが揃っていた訳でもありません。
運よく、競合店が閉店した訳でもありません。

只々、彼らが前向きになって実行してくれたからです。


最後に、
バイヤーの一人は、「他所の売価が気にならなくなりました」とも、言っています。
また、一人のバイヤーは、「感動で、本当に涙が出ました」とも言っています。

これらの言葉が、彼らの成長の証です。
そして、強くなった証です。
そして、彼らは、経営者感覚を持っています。

サラリーマンから、ビジネスマンに変身しました。


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