スーパーの業務改善入門

2018年12月11日

「売れ」の見える化と自動発注システムの段階的導入法【月間・商人舎12月号・原稿】

アナログ管理でデジタルを先導する!!

自動発注システムの導入によって、欠品など多くの問題を抱えている企業が少なくありません。

その一番の原因は、単に、人時削減を目的としているということです。
それと、事前の基盤整備がなされていない状態で、安易にシステム導入に踏み切っていることです。自動発注システムを導入する方、させる方、双方に問題があると考えられます。

また、欠品など、お客の不満を考えないシステム導入には大きな問題があると言えます。

下の写真は、自動発注システムを導入して数ヶ月になるある店舗の写真です。
写真①は、定番の棚に欠品が多く、品切れ(欠品予備軍)も見受けられます。
写真②は、販売期限(自社の販売可能期限)を過ぎて、見切り販売をしています。

【写真①】多くの欠品が発生
【写真②】多品目の見切りが発生
この実情から、システムの中の基準在庫量や発注点などの設定が、適切でないことが解ります。そもそも自動発注システムを導入する以前に片付けなければならない課題が解決されていないのです。
また、その修正作業がうまくいっていないことが解ります。

結果として、欠品の対処や、単品ごとの発注点や最低在庫量など、修正に多くの人時を取られてしまう事態になっています。
自動発注システムの導入によって、今までしなくてよかった作業が新たに増え、「作業時間の削減」どころではなく、「ほかの業務にも影響している」という、笑えない現実に陥ってしまっています。


本来目指すべき売場レベル

そもそも、基本四原則の一つである、欠品をしないということを前提にシステムを組み立てることが重要です。
そして、下の写真③のように、開店時の売場の「あるべき姿」を基準として持つこと、保つことが重要です。

【写真③】
そのためには先ず、POSデータを活用(直近、前年など)して、単品ごとの販売数を正しく把握する必要が有ります。
そして、今後の販売動向を予測して仮説を設定し、発注と納品のリードタイムや納品ロットを勘案して、必要な在庫数と発注数を決定する仕組みを作る必要が有ります。


アナログの棚割り管理システム・・・「売れ」の見える化

発注を行う現場では、発注端末のデータを覘いたり、発注の有無を思案したりと、時間はどんどん経過してしまいます。
大して売れてもいない商品(カテゴリー)に対して、発注作業や売場管理に多くの人時を消費してしまうことは、生産性を考える上で、余りにも勿体ないことです。

それに対して、私が、現場で推奨している方法は、発注精度をアップして、且つ、発注時間を短縮することが出来る仕組みです。以下に解説します。

具体的には、POSデータのベストレポートの販売数量順(直近3~4週分程度)を活用して、数量管理を行い、単品別にランク付けをします。

グロサリー商品は、1週間当たり、そして、日配品は、1日当たりの販売量で、ABCDのランク分けを行います。
(例)週販(日販)A-10個以上・・・赤色シール
      〃  B-6個 〃・・・・緑色 〃
      〃  C-3個 〃・・・・黄色 〃
      〃  D-3個未満・・・・シール無し
そして、写真④のように、ドットシール(ランク毎に色分けする)を活用して、対象商品のプライスカードの所定の位置に貼付します。

【写真④】各単品のプライスカード(品名カード)に、該当ランクのシールを貼付する
このことによって、単品別の売れ行きや、ゴンドラごとの売れ行きが一目で解るようになります。
POSデータを紙ベースで見るよりも、はるかにリアルに、そして短時間に判断が出来て、活用性が高いと言えます。


ランクシールの活用とメリット

「売れ」の見える化をすることで、次のステップとして、売場の改善が簡単に、しかも、短時間で出来るようになります。以下に、幾つかの実行事例を紹介します。

①発注時間を大幅に削減する
先ずは、発注作業です。
発注担当者の悩みは、単品ごとの発注の有無を判断することでしょう。特に経験の浅い人にとってはストレスさえ感じると思います。
その意味でも、ランクシールを活用することで、その判断が簡単にできるようになります。

例えば、無印の商品は、「陳列在庫が3個以下にならないと発注しない」と決めておけば、判断は短時間で出来て、時間を大幅に減らすことが可能となります。
一方、赤、緑、黄色のランクシールが貼られた商品は、利益貢献度の高い週品ですから、「売り切れないように」考えて、発注するのです。

②売場の効率アップ
次は、フェイシング管理です。
無印の商品は、1~2列で最低在庫(数)の管理をします。ランクシールの貼られた商品は、そのランクに応じて、適宜フェイシングを拡大するのです。
そのことによって、売場の効率をより高めることが出来ます。欠品の確率を低くすることは勿論、陳列在庫を増やすことによって、補充回数と発注回数を減らす効果も有ります。
フェイシングを戦略的に管理した人は理解できると思いますが、フェイシングを拡大しただけでも、視認率が上がり、販売量に変化が出ることが有ります。

③販売量アップ
ここまでくると、写真⑤のように、実践的マーケティングの応用にも入ることが出来ます。
無印を黄色に、黄色を緑色に、そして、緑色を赤色にランクアップさせるための作業です。
フェイシング拡大や陳列位置の変更などによって、視認率を上げ、POPによって、立ち寄り率や接触率を上げていくための実に楽しい作業です。
また、ランク上位の商品を主通路側で展開して、早期購買や関連購買を促し、更に販売量を伸ばすことも出来ます。
不足分の補充をするためだけの発注作業とは、全く異なる作業となります。

【写真⑤】発注量を増やし、フェイシングを拡大した事例
    ※緑色(1日6袋以上)から赤色(10袋以上)にランクアップ
④スキルアップ計画
さらに言えば、そのプロセスとその管理に対して、人事評価制度に繋げることを行えば、全体のやる気と生産性は、大幅に拡大することになります。
単純な作業から、売場管理の業務への移行拡大によって、稼ぐ売場と従業員のスキルアップにつなげていきます。

⑤情報の共有化
誰が売り場を観ても、写真⑥のように、単品(カテゴリー)の売れ行きが一目で解りやすくなります。
そのことで、店舗も本部も、客観的事実によって、共通の認識を持つことが可能となります。
ランクシールの貼付(見える化)は、販売計画や売場改善などの大きな武器となり、フェイシング(棚)の拡縮や在庫調整、棚替えなどを戦略的に、且つ、瞬時に行いやすくなります。

【写真⑥】
⑥仕組みの変更
作業削減や在庫削減など、店舗の状況に合わせて、これまでの仕組みを変えていくことも考えて行きます。
1ケース単位で納品されるものを、完全に売場に出し切るフェイシングに変更することや、箱やボールで納品していた商品を、バラ納品に変えるなどで、 全体としての生産性と利益を大きく改善することになります。


単なる人手不足対策ではなく、戦略的に大きく考える

人手不足や人件費アップは、大きな経営課題であると思います。しかし、その対策だけに気を取られてしまうと、お客のベネフィットから、遠ざかることにもなりかねません。
重要なことは、実地作業全般に視点を置き、戦略的に考えることが重要です。
そうすることで、コスト削減と、お客のベネフィットの向上を同時に実現する仕組みが出来上がるのです。

【表1】のフレームワークを使って説明したと思います。
左の方は、コスト削減に繋がるようなことです。右の方は、ベネフィットを生み出すようなことです。
自社の現場の実情をよく観察して、フレームワークを完成してみてください。今まで見えなかった、大きな発見(気付き)が有ると思います。

【表1】生産性を上げる「価値を生む行動」と「コストを減らす行動」
左部のコスト削減の項目については、『取り除く』ものと『減らす』ものを考えてもらいます。
今まで、当たり前にやっていたことについて、「そもそも必要か?」と問いただしてもらいたいのです。作業種、作業工数、在庫など、無駄なものを減らすことです。

特に重要な視点としては、そのこと(作業)が、お客の満足(ベネフィット(得))の向上に繋がっているかということです。そうでなければ、出来る限り減らす(取り除く)ことです。

さらに重要な考え方として、投入するコスト(お金と人時)と対アウトプットで考えた場合、「生産性を大きく落としてしまう」ことであると考えるべきです。当然ですが、改善効果は高いと言えます。

右部のベネフィットの項目については、『増やすもの』、『創造するもの』で、お客の購買行動に大きく関わり、利益の拡大に貢献するものとなります。
販売に関わる担当者にとっても、創造的で楽しみを感じる行動(作業)と言えるでしょう。

特に、『創造する』については、お客に、今までに無い商品やサービス、生活提案などを行うことによって、お客の購買を促し、売上と利益拡大を目指すのです。

結果が出ないチームは、どうでも良いことに大事な時間を使ってしまっているのです。
ここを変えるために、自動発注システムを導入することは、大きな意味が有ります。

但し、うまく利用すれば、無駄が少なくなり、生産性も上がる可能性は有りますが、決してそのこと自体は目的ではなく手段であることを正しく理解する必要が有ります。

「売れ」の見える化と自動発注システムの融合

ランクシールを活用して、それが仕組みとして定着し、オペレーションを確立しているチームは、自動発注システムを取り入れるとで、更に生産性は向上することになります。
一部の商品を除き、発注端末を使って、定番発注を掛けるという作業は、ほぼ無くなります。

しかし、発注点の修正や売場のメンテナンス(棚割り管理やフェイシング管理など)が無くなるわけではありません。 むしろその様な、コントロール(修正)の作業に定時定例で取り組むことが、重要なことになります。計画的に人時を投入して、売場の完成度を高めていくのです。

そして、売り場展開やプロモーションなどの付加価値業務に対して、戦略的に投入人時をシフトしていきます。
その時間を拡大するということが、営業戦略上重要なことであり、従業員個人の能力と、チーム全体の力を向上させることに繋がります。

今後、大手企業を中心に、AIの技術を活用した発注システムも開発されると思います。しかし、創造するのは人であり、売場を作り上げるのも人の力です。
そのことによって、売場は活性化され、お客の「期待に応える」、また、「期待を超える」ことが出来るようになるのです。
決して、このことを疎かにしてはいけません。


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